これまでの章では、データマネジメントの概要・原則・戦略におけるポイントを紹介してきました。
わたくしがデータマネジメントに出会った頃には、取り組む範囲が広く、やることも沢山あり、理解しながら行動に移していくことが大変な時期がありました。
そんな中でも、先人たちの知恵を借りることで、進むべき方向性を失わずに何とかやりきったプロジェクトもあります。
個人的な印象として、フレームワークは自分の立ち位置を正確に把握し、ゴールへの道のりが正しいかを確認できる、羅針盤のようなものだと思っています。
DAMA-DMBOKでも紹介されているフレームワークを使うことで、データマネジメント全体を俯瞰し、効果的な取り組みにつなげられることができます。
主なフレームワークを紹介しますので、取り組みの参考にしてみてはいかがでしょうか。
4.1 戦略アラインメントモデル
戦略アライメントモデル(HendersonおよびVenkatraman Strategic Alignmentモデル)は、データマネジメントに取り組む際の重要な要素をまとめています。
その要素とは、「事業戦略」、「IT戦略」、「組織と業務プロセス」、「情報システム」の4つにわけられます。
出典:ITpediaより(Henderson and Venkatramanによって編集された)
横軸は「ビジネスとIT」、縦軸は「戦略と遂行」について示しています。
真ん中に存在する「インフォメーションとデータ」については、その両者が密接に関係していることから、同じ領域に示されています。
「インフォメーション」の場合、戦略や業務の実行に関連することから、中央より左側(ビジネス側)に位置しています。
「データ」の場合、ITによるシステム的な運用・管理に関係することから、中央より右側(IT側)に位置しています。
このフレームワークは出発点として全体を把握する際に有効ですが、抽象度が高すぎることに注意してください。
実際に利用する場合、領域ごとにわかれた六角形をさらに下層の要素に分解していくことになります。
例えば「業務戦略とIT戦略」では、「取り組む対象の範囲を特定すること」や「自社の競争力の把握」、「戦略から遂行までの統制方法」を考慮する必要があります。
また、「遂行」の例としては、「業務で使われているシステム」、「業務プロセス」、「人材のスキル」、「プロジェクトチーム編成」などを考慮する必要があります。
下記の図はあくまでイメージとなりますが、このように分解し対象を特定しやすくしていきます。
ここでは「組織と業務プロセス」を要素分解した場合を表しています。(状況によって6つの要素分解で足りる場合、足りない場合、さまざまです。)
「組織」を作るうえで考慮する「組織編成」、「担当の役割・責任」、「人材のスキル」や「業務プロセス」を運用するうえで考慮する「システム」、「プロセス」「評価方法」などに分解しています。
戦略アラインメントモデルは、データマネジメントの取り組みを具体化する前のスタート地点として、全体把握を行い、漏れのない行動につなげていくための参考にすると良いのではないかと思います。
次の記事では、「アムステルダムインフォメーションモデル」と「DAMA-DMBOKモデル」について確認していきます。
補足:インフォメーション(情報)とデータの関係
「インフォメーション」と「データ」の違いはなんですか?とよく聞かれるため補足です。
インフォメーションとは、「ある物事の中身」や「それを通して何らかの知識を得られるもの」のことです。
データとは、「数字」や「記号」、「文字」などを指します。データはそれ自体が単独で存在する場合、どのような意味を持つのか、正確に読み取ることは困難です。
例えば「A」というデータがあれば、それは「A」という文字だけという認識をする人が大半かと思います(Aの意味やAからはじまる単語など色々と推察はできますが、答えが何なのかはわかりません…)。
しかし、このデータにインフォメーションが加わることで、人はその意味や理解につなげることができるようになります。
例えば、ある場面で「A」は、「Apple」の「A」を指している、というインフォメーションがあれば、それ以降は「A」を「Apple」であるという意味を認識できますよね。
インフォメーションはその意味のとおり、「情報」です。それをデータに付け加えてあげることで、データは意味を持つようになります。
ちなみに、DAMA-DMBOKでは「インフォメーション」と「データ」を同じように取り扱っています。データマネジメントにおいてそれら二つの意味合いは絡み合っており、依存関係として定義されているからです。
例外として、戦略アラインメントモデルを使う際には、取り組むべき領域を明確にすることで具体的な行動につなげやすくなることを狙うケースがあります。
そのような状況ではインフォメーションとデータを別々に扱うことに意味がありますので、注意頂ければと思います。(例:事業の意思決定の材料として、有効なインフォメーションを創出するために、データを整備する必要がある。)